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骨董漫遊

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骨董市で購入した仏像の数々。いずれも「民衆仏」ではなく仏師の作品らしい。中央の虚空蔵菩薩坐像(こくぞうぼさつざぞう)は、記憶力向上にご利益があるとされ、年々手を合わせる回数が増えている
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骨董市で購入した仏像の数々。いずれも「民衆仏」ではなく仏師の作品らしい。中央の虚空蔵菩薩坐像(こくぞうぼさつざぞう)は、記憶力向上にご利益があるとされ、年々手を合わせる回数が増えている

 21世紀に入って世を席巻した仏像ブームによって、市場価格が急騰した。古美術業者によると、ブームが言われ始めたころには、すでに古物市場(プロの業者の市)で仏像を入手することは難しくなっていたそうだ。

 2008年には、ニューヨークのオークションで、日本の宗教法人が運慶作とされる大日如来坐像(ざぞう)を約14億円で競り落としている。大きく報じられたので、覚えている方も多いはずだ。

 東京国立博物館で現物を見たことがある。慈愛に満ちた半眼に、ふくよかな顔。ぐっと胸を張り出し思索にふける青年のようだった。月並みな表現だが、「リアル」で「うまい」。こんな美仏がほしいと思った。

 08年当時、関西の複数の骨董(こっとう)店主から次のような話を聞いた。オークションに大日如来坐像を売りに出した会社員は、古美術商から「サラリーマンが買える額で購入した」という。しかも買った場所というのが、なんと「大阪・四天王寺の骨董市」というのだ。私も四天王寺の市には年に数回、足を運んでいた。それだけに、骨董仲間と悔しがったり笑ったり、大いに盛り上がった。(実際は栃木県の古美術店で購入したようだ)。

 仏像でいえば、まだ注目度がそれほどでもなかった01年ごろ、奈良・興福寺の千手観音菩薩(ぼさつ)立像を小ぶりにした仏像が、鳥取のなじみの古美術店で売り出されていたことがあった。価格は100万円。今は亡き店主と一緒に、「千手」が果たして何手(本)なのか、数えたことを懐かしく思い出す。確か40本ほどではなかったか。今なら1千万円でも買えないかもしれない。

 同じ頃、先に紹介した14億円の運慶作品と似た仏像が、京都・東寺の骨董市で30万円で売られていた記憶もある。

 あれらの仏像がブームを経て、いくらぐらいで取引されたのか、知るよしもない。今となっては、夢のような昔話である。

 わが家にも、神戸・須磨寺の骨董市で買い求めた(お坊ちゃま観音の)「かんちゃん」をはじめ、十数体の仏像がある。ほぼ1年に1体のペースで集めたことになる。値段は数千円から、高くても20万円までだったと思う。

 今では古美術店などで、まれに“ちょっといい仏像”を見つけても、数百万円、あるいは数千万円の値が付いており、とてもサラリーマンには買えなくなった。正統派仏師の美仏を入手するのは到底無理だろう。

 私にとっての仏像は信仰や投資の対象でも、美術品でもない。精神安定剤とでも言えばいいだろうか。見ていると心が安らぐのだ。特に「かんちゃん」はいとおしい。還暦を過ぎ、その思いは日々深まっている。

 (骨董愛好家、神戸新聞厚生事業団専務理事 武田良彦)

2021/4/12
 

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