エッセー・評論

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公演会場「Julius Hus」のエントランスにて。(撮影・Frederic Piccoli)
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公演会場「Julius Hus」のエントランスにて。(撮影・Frederic Piccoli)

公演会場「Julius Hus」のエントランスにて。(撮影・Frederic Piccoli)

公演会場「Julius Hus」のエントランスにて。(撮影・Frederic Piccoli)

 コペンハーゲン発ストックホルム行きの便に搭乗した瞬間から、久々に襲ってきた激しい閉所恐怖症に身悶えること1時間10分。飛行機は軽やかにスウェーデンの首都に舞い降りた。オー・エリコ・サバイバル・サクセス・ワンダホー。

 既に100回以上訪れた水の都、ストックホルム。北緯59度に位置するこの北の街を私は心から愛している。わけても短い夏の美しさは例えようがない。特に大親友のジョンと過ごした26歳の夏は、未だ夢か現(うつつ)か分からぬほど幻想的な体験に満ちたものだった。

 バスを降りて深い森の中を30分ほど歩くと、漣(さざなみ)一つ立てぬアイスブルーの湖畔に建つジョンの家族のお家に到着した。

 あの澄みきった湖の青。おとぎの世界そのもののパステルイエローのお家。滴るような森のグリーン...。

 当時私はベルリン芸術大学で修行の徒にあり、ピアノ漬けの生活に疲弊しきっていた。室内生活ばかりの虚弱な音楽学生の身に、たった半時間でも森林マイナスイオンの洗礼は強烈だったらしい。ジョンのご家族への挨拶もそこそこに、私はなんとそのまま夜まで眠りこけてしまった。ジョンも、これまた横のカウチでノックダウンしていたように記憶している。

 何かがうごめく気配を感じて、私たちは殆ど同時に目を覚ました。庭のほうへ目をやると、そこではまだ生まれて間もない7、8頭のバンビたちが、煌々と眩い月光に照らされて跳ね回りながら遊んでいた。

 夢よりも夢らしい光景に息を呑んだ。

 そっと庭に出たのに、バンビたちは一目散に駆けて行ってしまった。暫く呆然としていたが、やがて私たちはどちらからともなく、月光の差す方向に向かって湖を泳ぎ始めた。柔らかい水がどこまでも優しく身体にまとわってくる。スウェーデン人たちは毎夏、こんなにも儚く美しい夜を、月と交わりながら過ごすのだろうか。

 湖畔に戻ると、かがり火が焚かれてあった。ブランケットに包まって、温かいスープを飲みながら喋り明かしたあの夜を私は決して忘れない。

 11月のストックホルムは、日照時間が極端に短くなり、街中がメランコリアに侵される。そんな中、コンサートパフォーマンス「「JAPANESE CHAMBER CABARET」」を2日連続で演じる。「日本と言えば」の既存のイメージ、フジヤマ・サムライ・ハラキリ・ゲイシャではない、まさに「いま」の日本を体現しようと、生々しいほど冷徹に現実を直視しし尽くした末に書き下ろした、音楽とパフォーマンスからなる作品である。

 今年2017年、デンマークのオーフス市が欧州文化中心首都に選定された。その関係で先の5月、2夜公演にお招き頂きプレミアを行なった。それから半年後の今、内容に磨きをかけてストックホルムで再演が決定した「JAPANESE CHAMBER CABARET」。共演者が日本から到着するのを空港でハラハラと待ちながらこれを書いている。

 ああ、愛するストックホルムのことを書き始めると止まらなくなってしまった。公演の詳細は「後編」にて!

2017/11/10
 

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