先月は2度渡欧して、ドイツやデンマーク、スウェーデン、ポーランドなどの国を回り、多くの公演やイベントを行った。そして、今また3週間後の渡欧を控え、向こうでのパフォーマンスの準備に躍起となっている。次の旅が始まる前に、せめて一日なりとも日本を全力で楽しみたいと渇望していたら、神戸の親しい友人から格好のお誘いを受け、結果、贅沢極まりない三都物語の恩恵に浴する次第となった。
【京都】
コンコンチキチン・コンチキチン。
ときは祇園祭の宵山。京都の花見小路を入ってすぐに位置するお茶屋「一力亭」でのお茶席に寄せて頂いた。京都でも最高位の格式を誇り、一見さんでは門をくぐれないが、ありがたくも貴重なお茶券を頂戴し、朝からお茶とお菓子の饗応にあずかった。
おもてなし下さる舞妓さんたちの楚々とした色香、華やぎ、凛とした佇まいと言ったらどうだろう。お揃いの髪飾りもこの日のための特別仕様だと横のお客様から伺った。大変失礼ながら、近年横行する舞妓コスプレでこっぽりをだらしなく引きずって歩く観光客とは天国と地獄ほど違う。
つい先日まで滞在していたポーランドでの水分補給はウォッカとミネラルウォーターだったのに、今こうして滋味深い抹茶を喫していると、何やら万感の思いが胸に迫る。
一力亭を後にして八坂神社を参拝。それから菊水鉾汲泉軒でのお茶席に参加した。本日二度目のお茶を頂くに及び、持って生まれ、今なお進化し続ける私の荒ぶる御霊(みたま)は、束の間ではあるがパンドラの箱に吸い取られていったようである。
学生時代に6年を過ごした古都へ戻り、コンコンチキチンの祇園祭に無心の境地で身を委ね、ただただ童心に帰って楽しんだ。
【大阪】
ギリギリまで宵山の京都を堪能し、電車に飛び乗って大阪へとって返すと、七月大歌舞伎・夜の部を大阪松竹座で観劇。毎年恒例行事としている京都四條南座での十二月吉例顔見世を、ツアー中だったのか去年は見逃してしまったので、一目なりとも片岡仁左衛門さまを拝見したい一心である。
数年前のこと、仁左衛門さまがパッと和傘を広げ、一瞬見栄を切ったあと、花道を去ってゆくシーンを観たとき、滂沱の涙を禁じ得なかった。あの間合い。0.1秒、長かったり短ければ、あそこまで観客の心を掴めないであろう、神がかりのようなあの間合い。NHK大河ドラマ「太平記」での後醍醐天皇役でティーンの私の心を掴み、さらに「女殺油地獄」の与兵衛役で完全に魅せられてしまった、我らが日本の至宝。
昼の部の「義経千本桜 渡海屋・大物浦」では新中納言知盛を演じられたが、夜の部は残念ながらご挨拶のみであった。御歳75歳。これからも、ご多幸・ご健勝であることを心よりお祈り申し上げます。
【神戸】
さて、贅沢をし尽くして帰神したものの、精神の高揚が鎮まらず、すぐには眠れそうにもないので、自宅から徒歩距離の源泉掛け流し天然温泉「六甲おとめ塚温泉」へ出向いた。その水質の良さで知られ、阪神間で大変な人気を誇る。露天風呂はもとより、炭酸泉、塩サウナ、マッサージ浴槽... と何時間いても楽しい。これだけの充実ぶりで、入浴料が大人(中学生以上) 430円とは泣けるではないか。
身体を清めて湯の中に身を浸し、神戸の夜空を見上げた。
来月は再び海外で公演が続く。舞台衣装と小道具の詰まった思いスーツケースを2つゴロゴロ引きながら、飛行機や電車の遅延に怯え、延々終わらぬ稽古と延々終わらぬパーティープラネットの生活か。荒ぶる御霊はパンドラの箱を抜け出し、修羅の相でチームを叱咤する己の姿が目に浮かび、私は小さくため息をついた。今日のような夢のひとときを過ごし、夜中にこうしてゆったりと温泉に入って疲れを癒す日など、もう二度と来ない気がする...。
と、はたと我に返って思い出した。そうだ、私、明日はこれまたお誘いを受けて、仕事終わりに有馬温泉に行くんだった!
危うく嘘つきエリコになるところであった。忙しい、忙しいは嘘である。私は合間を縫って遊ぶことにかけてはジーニャスなのである。
ざぶりと湯から上がると、火照った身体を六甲の夜風が優しく撫でていった。
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