さて、再び人魚(姫)になる日が近づいてきた。
2017年11月3日、新プロジェクト、コンサートパフォーマンスシリーズ「ときはいま」第1弾~明石城人魚之巻~を明石城櫓横にて上演した。これは「あかし本(神戸新聞明石総局編/記者・金山成美)」を原案として、明石の代名詞ともいえる時と海を縦糸、そしてそこに暮らすヒトビトとの交流を横糸に見立てて織りなす、音楽とパフォーマンスアート、技術チームの技を最大限に活かした舞台芸術で、満員のお客さまから「こんな独創的な舞台は見たことがない」と心温かな賛辞と奨励を頂いた。
15~6年もの間、海外のアート界で「ザ・NG無しアーティスト」の栄誉(?)にあずかってきた私だが、昨夏「あかし本」に出会い、それを機に3歳まで暮らした明石を頻繁に訪ねるようになったことで、次なるライフワークは私を育ててくれた地元の方々との密なる共同創作だとの確信を得た。
「あかし本」に収められた記事から構想を得て、歴史と文化を紐解き、台本をゼロから起こしていくのだが、舞台において自らを「人魚」と設定したのは以下の理由による。
・2歳の時に明石城のお濠に真っ逆さまに落ちたのだが、泳ぎを全く知らなかったにも関わらず、リトルマーメイドのように自らプクリと浮かび上がってきたこと
・それから数十年後、童話「人魚姫」の作者であるデンマーク人のアンデルセンゆかりの地でコンサートサロンを開き、アートディレクターを務めたこと(世界最大ガッカリの1つ、人魚姫の像の前も毎日のように散歩していた)
これはもう、人魚になるしかあるまい。
西からゆらゆら泳いで来て、どうした訳か極東の明石沖に漂着した人魚が、そこで邂逅した地元民と様々なドラマを繰り広げていく。長い欧州生活と日本での実体験をもとに、全くのオリジナル舞台作品を創作出来るとこれまた100%の確信を持ち、最強チームと共にプロジェクトはブルドーザーのような勢いで爆進し始めた。
さて、このエリコ人魚であるが、困ったことに彼女はとんでもなくワガママである。台本執筆のため何十回も明石に通い、現地調査と研究を行っているのだが、そこで出逢ったヒトビト、見たもの、訪れた場所に惚れるとすぐに「これ、やる」「このヒトに絶対出演してもらいたい」「この場所でしか出来ない」と無駄に大きな眼の瞳孔を全開にして取り憑かれたようにうわ言を呟き始めるのだ。
しかし、明石の方々の優しさと言ったらどうだろう。私が何を言っても答えはこうである。
「ああ、ええで!」
例えば、出逢った瞬間に心を鷲掴みにされてしまった明石市内5漁協組合長(橋本幹也、戎本裕明、田沼政男、大西賀雄、山本章等の5氏)、そして宮崎鉄平競り人は、なんと俳優としての出演を承諾下さり(出演依頼に訪れた際、私は「高倉健を超える迫真の演技をせんとあかんぜよ」と天罰とイカズチが同時に脳天を直撃しそうな横暴ぶりで迫った)、さらに人魚という設定である以上、自ら魚として競りにかからねばならぬと思い詰めた結果、競り道具一式に加え、ピッチピチ跳ねた鮮魚数十匹まで提供して頂き、おそらく前人未到の本格的競りシーンから始まる舞台を明石城櫓横で敢行してしまった。それが昨年11月のこと。
そして現在、我々アートコレクティブ「ときはいま」は、来たる3月31日(土)、明石市内の中崎公会堂で開催予定の第2弾パフォーマンス~明石沖に漂う之巻~の準備のため、チーム全員が狂奔の日々を送っている。
エリコ人魚はといえば、「あかし本」に山のような付箋を貼りつつ、芸術的欲求と欲望のブラックホールに陥った状態で懊悩とのたくりを繰り返している。いつもの如く。
私の目下最大の物欲の対象は、本に掲載されているフラスコに入った海苔の「糸状体(海苔の赤ちゃん)」である。確か私はピアニストのはずではなかったか。さりながら、ヴァイオリニストやフルート奏者ではなく、なぜゆえ海苔の赤ちゃんと共演したいのだろう…。もはや自分で自分のことが皆目分からぬ。しかし、欲望はいや増すばかり。冗談ではなく、私は次第に眠れなくなってきた。
エリコは一週間我慢した。既にもう、限度を超えたあり得ない数のワガママを叶えてもらっている。この上、「あのね、今度は海苔の赤ちゃんが欲しいの」と申し出たら、いくら何でもさすがに呆れられ、可燃粗大ゴミとして捨てられる可能性大。
しかし、先日リサーチのため再び明石を訪れた際、私は遂に耐えきれなくなって同行者に泣きついてしまった。海苔のベイビーが欲しくて欲しくて、ワタシ、気がおかしくなりそう。
同行者の返事はいとも簡単であった。
「ああ、ええで!」
彼女は車をUターンさせた。私たちはそのままアポなしで「JF兵庫漁連のり研究所」を訪れ、研究所の職員の方に事情をお話したところ、お返事はやはりこうであった。
「ああ、ええですよ!出来るだけフレッシュなものを用意しておきます」
おお、神よブッダよ明石の方よ…。彼の背後から後光がさすのを私は確かに見た。
「ときはいま」は、こうして信じられないほど多くの地元の方々の支援を得て創られている。
3月31日の公演まで約1ヶ月。夏目漱石氏がこけら落とし講演を行った素晴らしい会場の中崎公会堂で、皆さまのご来場を一同心よりお待ち申し上げております。
追伸:今から1カ月前のパフォーマンスでエリコは丸刈りになったため、ただ今なかなか倒錯的な人魚姿です。公演当日はお客さまに「人面魚!」と魚(ギョッ)とされないように、なんとか工夫を凝らさねば…。
第1弾~明石城人魚之巻~写真ドキュメンタリー コンサートパフォーマンス「ときはいま」第1弾(ホームページはこちら)
第2弾~明石沖に漂う之巻~明石文化芸術創生財団(ホームページはこちら)
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