エッセー・評論

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松本壮一郎氏のベルリン時代。2006年W杯開催都市ベルリンのシンボル、テレビ塔もサッカーボール仕様 斜陽貴族一家の長兄役。芦屋市にて 女の命である黒髪を切り落とす 休憩の5分間で、ピアニストの髪をバリカンで剃り上げる松本氏 スウェーデンのグスタヴィアヌム歴史博物館の解剖台にて。麻酔医役
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松本壮一郎氏のベルリン時代。2006年W杯開催都市ベルリンのシンボル、テレビ塔もサッカーボール仕様

斜陽貴族一家の長兄役。芦屋市にて

女の命である黒髪を切り落とす

休憩の5分間で、ピアニストの髪をバリカンで剃り上げる松本氏

スウェーデンのグスタヴィアヌム歴史博物館の解剖台にて。麻酔医役

  • 松本壮一郎氏のベルリン時代。2006年W杯開催都市ベルリンのシンボル、テレビ塔もサッカーボール仕様
  • 斜陽貴族一家の長兄役。芦屋市にて
  • 女の命である黒髪を切り落とす
  • 休憩の5分間で、ピアニストの髪をバリカンで剃り上げる松本氏
  • スウェーデンのグスタヴィアヌム歴史博物館の解剖台にて。麻酔医役

松本壮一郎氏のベルリン時代。2006年W杯開催都市ベルリンのシンボル、テレビ塔もサッカーボール仕様 斜陽貴族一家の長兄役。芦屋市にて 女の命である黒髪を切り落とす 休憩の5分間で、ピアニストの髪をバリカンで剃り上げる松本氏 スウェーデンのグスタヴィアヌム歴史博物館の解剖台にて。麻酔医役

松本壮一郎氏のベルリン時代。2006年W杯開催都市ベルリンのシンボル、テレビ塔もサッカーボール仕様

斜陽貴族一家の長兄役。芦屋市にて

女の命である黒髪を切り落とす

休憩の5分間で、ピアニストの髪をバリカンで剃り上げる松本氏

スウェーデンのグスタヴィアヌム歴史博物館の解剖台にて。麻酔医役

  • 松本壮一郎氏のベルリン時代。2006年W杯開催都市ベルリンのシンボル、テレビ塔もサッカーボール仕様
  • 斜陽貴族一家の長兄役。芦屋市にて
  • 女の命である黒髪を切り落とす
  • 休憩の5分間で、ピアニストの髪をバリカンで剃り上げる松本氏
  • スウェーデンのグスタヴィアヌム歴史博物館の解剖台にて。麻酔医役

 舞台監督、松本 壮一郎氏は8月22日生まれの獅子座の男である。百獣の王である獅子は、本番までの打合せでは、こちらの要望を的確に掴んで具現化していく、穏やかで非常に聞き上手な紳士との印象を与える。しかし、こと舞台当日となると声を全く荒げることなく咆哮する「獅子王」と化す。

 少し前のコラムで触れたが、私は丸坊主になった。3年半に及んだコンサートパフォーマンスシリーズ「七つの大罪」Vol.7 飽食編の舞台上でのこと。前半のシーンで私の長い黒髪をハサミでばさりと切り、さらに休憩中の5分で女の命を完膚無きまでにバリカンで剃り上げた猛獣こそ、舞台監督の松本氏である。

 「舞台監督」と書いたが、彼は役者としてそのキャリアをスタートさせた舞台人でもある。監督業と同時に、共演者も務め得る稀有の存在だ。

 兵庫県立芸術文化センターで「ひょうごT2の松本です」と紹介を受けてから2年半、舞台を共にし始めて1年半。つまり、「舞台監督」と「役者」の兼業依頼に対する「アウト・イリク・アウト・ヌリビ(是か否か)」への問いに対し、超多忙の彼に「是」と言わせるまで、口説き落としになんと1年もかかったわけだ。

 常日頃は即断即決の私だが、これだけ待つ意味があったという理由がこれから解明されていくだろう。

 「是」の返事を貰って以降、書き下ろした5つの作品での松本氏の役柄は以下の通り。

 1つ目:(私と同い年だが)ダディ役

 2つ目:大正期の斜陽貴族一家の長兄役

 3つ目:スウェーデンのグスタヴィアヌム歴史博物館で麻酔医役

 4つ目:女の強欲を嘲弄する、白馬への乗馬を拒んだ騎士役

 5つ目:無知蒙昧が故に酒池肉林に耽溺する女を高圧的に盲信させておきながら、彼女の幻夢を破壊し、やがて覚醒させる男性役

 これらの役を表で演じながら、裏では音響・照明などの技術スタッフに絶妙のタイミングでキューを送り、尚且つ不測の事態が起これば(そしてそれは頻繁に起こる)とっさの判断で救急措置を取るのだから、惰性で仕事をするそこらの輩とは訳が違うのだ。

 同い年、舞台を住処にするというだけでなく、我々にはもう一つの共通項がある。

 欧州のメトロポール、ベルリン。

  2006年、松本氏はサッカーW杯の開催都市ベルリンに1年住んだ。その当時、私もベルリン芸術大学で学びの徒にあり、毎日狂ったように大学にこもってピアノを叩いていたのだが、それと劣らぬ情熱で夜遊びにも励んでいた。獅子と蠍(私)はお互いの存在を知らぬまま、かの街の同じバーやクラブで、逸脱と虚脱を繰り返していたに相違ない。

 舞台監督として大胆且つ緻密な計算に基づいた大鉈を振るう松本氏だが、今でも役者だというアイデンティティは持ち続けている。役者とは生き方そのものである、と。

 これまでの代表作を尋ねると、原 真(はらまこと)氏と共同プロデュースした舞台「エダニク」との返答。日本の演劇シーンを牽引する劇作家、横山 拓也氏に脚本を委嘱した。この作品は各方面で激賞を受け、何度も再演を重ねている。もう一つは、今岡頌子・加藤きよ子ダンススペースによる「S字の曲線」等のモダンダンス作品。舞台に立つ時の姿勢や佇まいは、両氏の薫陶による稽古で培ったものが土台となっているそうだ。

 松本氏は、ああしろ・こうしろの指示は一切出さない。面白いものをもっと面白くし、その人がまだ気づいていない魅力を引き出す。観客のことを考え抜いた上で、個々の持つ素材を活かしきり、圧倒的な作品作りを目指していく。

 飽食がテーマの舞台で長い髪を切り落とす構想は、1年前から私の中で既にあった。しかし、それならいっそ剃髪すればどうかと提案したのは松本氏である。喜怒哀楽愛憎の幾多の経験を、ただひたすらありがたく滋養として蓄えてきた人間のみの持つ自信が、これを言わせるのだ。私が「是」と答えるのは当然ではないか。

 …今年も容赦なく暴れ狂うがと、彼に剃られた坊主頭をこれ見よがしに撫で上げながら宣言すると、自分は安全圏にいるつもりは一切ないと、獅子王らしき返事が穏やかな微笑と共に返ってきた。

 松本壮一郎という、芸術的欲求を全て具現化してくれる人に出会ってから、舞台上での私はさらに我がままになった。思いやりと決断力に溢れた鬼監督を、作品創りの内に持つこの幸福。

 鬼も内、福も内。

2018/2/3
 

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