今回の会場は「JULIUS HUS」。ストックホルムの名門一族が代々受け継いできた、数棟を併設した圧巻の建物である。上階のワンフロア丸々が、優雅な貴賓室を幾つか究極の優美がたゆたうコンサートサロンとなっている。ヒトにもモノにもなかなか惚れぬ偏愛的嗜好の持ち主であるエリコなのに、この会場は見た瞬間、見事に魂を寸殺されてしまった。
21世紀の日本で起こっている社会現象に、生々しく振り回される男女の葛藤劇を書き上げたと、この美しいサロンで語った今夏のこと。サロン責任者のエバの目から輝くような光彩が放たれ始めた。内容上、思わず目を覆うような暴力的な演出も含まれている。現に本番では客席から「やめて、もうやめて」と悲鳴の声も出た。しかし、文化芸術、社会の矛盾に対するエバの深い理解と洞察のおかげで、ミーティング開始から僅か10分で本公演開催が決まった。
多くのヒトビトは私のことを、化け物もしくは異種生命体だと思っているが、それは違う(と思う)。標準より若干暑苦しめの熱量を持って生まれてきただけだ。幸せなことに、その情熱を丸々理解して、好き放題させてくれる各国の多くの協力者たちのご厚意があるからこそ、私は自分の信念を貫き通したアーティスト生活を何年も続けることが叶っている。
喜怒哀楽・愛別離苦・怨憎会苦...。 人間が避けて通れぬ感情や事象と、先ず真っ向から向き合う。そしてそれらの感情が起因となって引き起こる腐った社会現象を研究し、産みの苦しみにのたうちながら台本に起こし、音楽やパフォーマンス、映像を通して舞台化していく。表現法について、支援者の方々は何も言わない。それがどんなに過激であれ、エリコが自分を鞭打ちながら鋼の魂でやっている限りはと、決して口を出さないのだ。ただただ有り難い...。
有り難いと言えば、2日目のマチネーになんと3人のお友達がはるばる日本からストックホルムまで駆けつけてくれた。ヘアメイクアップアーティストの歯朶原諭子さん、スタイリストのMAYAさんとミュージシャンのRIKIYA NISHIMURAさんである。8000km以上の距離を軽々超えて...。会場到着早々、メイクやスタイリング、写真撮影までして下さった。ああ、これ以上の喜びがあるだろうか。
ところで今回の2公演で、私は両眉を失った。共演者から「公開眉剃りの刑」に処されたのである。明治時代初期辺りまで、既婚女性は眉を落とす習慣が日本にはあった。エリコはワイフの設定なのに、眉があるとは何ごとぞという訳で、21世紀の舞台で眉剃り落としの刑に処せられた。その産物であるホラーそのものの顔で、いま空港に向かっている。
次回は、1週間缶詰めとなるコペンハーゲンの会場からお届けします。
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