ピアニスト牧村英里子と世界のヒトビト
「七つの大罪 -嫉妬- 」4夜連続公演のため、稽古も含めて丸々1週間、会場であるコペンハーゲンの「コンサート教会」に缶詰めとなっている。
今回は日本からゲストパフォーマーをお招きした。ダンサーの巖(いわお)良明氏である。彼と1年仕事をさせて貰ったお陰で、私は体重を8キログラム落とし、体脂肪も8パーセントダウンに成功。彼の初レッスンを受講して以来、トレーニングチューブを使った筋トレを毎日1500回ほど自らに課している。舞台でどんどん肉体派になってゆくエリコである。
「嫉妬」というテーマに真っ向から挑んでいるため瞳孔が開きっぱなしの状態にあり、生まれたての子ヤギより頼りなく震えながら歩き、たびたび慟哭の発作を起こしている私。そんな私を、時に容赦ないプロフェッショナリズム、大きな許容と優しいハグ、そして多くの笑いでチームがどっしり支えてくれて、頼もしいことこの上ない。
チームで最も若い照明デザイナー、ソフィアについて書いてみたい。
ソフィア・イヴァルソン。まだ20代だが、テーマの核を確実に掴みつつ全体像をしっかり俯瞰し、大胆な発想で舞台を創りあげる、私が大きな信頼を置く若き照明アーティストだ。
スウェーデン人の彼女が生まれ育った町には既に現役を引退した往年の大女優が住んでいて、そこで小さな劇場を経営していた。その女優は未来の才能の卵育成に励み、ソフィアも劇場までレッスンに通った。その頃は演出家になりたかったそうだ。シェイクスピアに心酔する少女時代を過ごした。
時を経てデンマークに移り、大学で舞台照明を学んだ後、コミュニケーションデザイン科で修士号取得。近い将来の夢は、仲間と会社を設立し、異なるスキルを持った人々がお互いを高め合える環境を創造していくことだと語る。
ところで、舞台に怪我はつきものである。今回の舞台の一部には30cm四方の浅い穴が空いており、危険なのでメンバーがガムテープでガチガチに補強してくれた。それにも関わらず、憑依中の私は絵に描いたように、まんまとそこへズドンと落ちてしまった。すぐに危険回避のための別案が飛ぶ。想定外中の想定外のエリコの人生は、チームとの信頼関係のみで成り立っている。
ソフィアは照明のみならず、安全徹底重視の舞台設営から大道具設置、何なら私の精神を支えるお母さんの役割まで果たしてしまう、大樹のような存在だ。
照明デザイナーの仕事は、舞台とそこに立つ人にライトをあてることである。暗がりで照明機材を操るソフィアに、公演中スポットライトが当たることはない。しかし、舞台に立つ側の私にとって彼女の存在は「私がいる限り、あなたは大丈夫」と念を送り続けてくれる揺るがぬ確かな灯明なのだ。
最強チームのおかげで「嫉妬」の初日をスタンディングオベーションで迎えることが出来た。残すはあと、3夜。
コペンハーゲンでの公演後は、古巣のベルリンへ飛びます。
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