洲本5人刺殺事件
「本当の被害者は私です」。8日、神戸地裁で始まった兵庫県洲本市の5人刺殺事件の初公判で、殺人などの罪に問われた平野達彦被告(42)は「完全な冤罪(えんざい)」と述べ、無罪を主張した。逮捕直後から1年以上も黙秘を続けた平野被告。落ち着き払った口調で不可解な主張を繰り返し、法廷には遺族がすすり泣く声が漏れた。
平野被告は黒色のスーツ姿で、背筋を伸ばし真っすぐに前を向いて入廷。傍聴席には目をやらず、緊張したように何度もほおを動かすしぐさを見せた。
罪状認否で証言台に立つと、「私の体が被害者とされる5人の命を奪ったとするならば、それは工作員が私の脳を乗っ取ったからだ」などとメモを約3分間読み上げた。さらに被害者を「サイコテロリスト」とも呼んだ。
これに対し、検察側は冒頭陳述で「向精神薬の副作用で体にかゆみが生じ、電磁波の攻撃と思い込むようになった」と指摘。被告が事件の際に被害者らとのやりとりをレコーダーで録音し、インターネットに「復讐(ふくしゅう)一部成功」と投稿していたと明かした。
弁護側は全面的に争う姿勢を示し、平野被告の主張を補足した上で「あり得ない話だとするなら妄想に支配され、心神喪失としか言えない」と述べ、責任能力の欠如を主張した。
一方、遺族は検察官席の後ろに置かれたついたて越しにやりとりを聞き、時折、すすり泣く声が漏れた。山あいの集落を襲った事件は3月で発生から2年となる。洲本市の現場近くに住む70代の無職男性は「今も5人を思い出す。全容が明らかにならなければ、住民は前を向けない」と話した。
▼措置入院後の長期支援課題
洲本5人刺殺事件では、精神障害者に強制的に治療を受けさせる「措置入院」の後のサポート不足が課題となった。事件を受け、兵庫県は退院後も継続して支援する体制を整備。昨年7月に起きた相模原市の障害者施設殺傷事件でも容疑者は措置入院の経験があり、国は退院者支援による再発防止を目指すが、専門家は社会の理解が不可欠と指摘する。
洲本の事件前、平野達彦被告(42)は2度の措置入院歴があり、医療機関や行政などが支援してきた。だが事件の8カ月前から通院が途絶え、支援側は所在をつかめず、医療の再開につなげられないまま事件は起きた。
兵庫県が事件後に設けた有識者検討委員会はこの医療の中断を問題視。県は昨年4月、措置入院者を退院後も見守り、孤立を防ぐ「継続支援チーム」を新設し、行政や警察、病院などの連絡会議も整えた。国も相模原の事件を受け、県の制度を参考に、長期支援の法制化を目指す。
兵庫県の検討委員会委員を務めた日本福祉大の青木聖久(きよひさ)教授(精神保健福祉学)は「孤立を防ぎ支えるには、社会が『精神障害が怖い』と監視、拒絶するのでなく理解することが重要。自治体が十分にケアできるよう、国の財政的な支援も不可欠だ」と話した。(山路 進)
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