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洲本5人刺殺事件

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 兵庫県洲本市の5人刺殺事件を受け、県は4月に県内の全健康福祉事務所に「継続支援チーム」を設け、関係機関と連携しながら、措置入院した精神障害者らを退院後も見守る態勢を築く。被害者の家族や平野達彦被告(41)の家族から警察や行政に何度も通報・相談があったにも関わらず、結果的に連携にほころびが生じ、事件を防ぐことができなかった教訓を生かすためだ。

 2004年に加古川市で7人が刺殺された事件でも、住民からトラブルの情報が警察や健康福祉事務所に寄せられていた。事件後、県は精神障害者への適切な医療提供のため、事務所と警察署、市町などでつくる「地域協議会」を設けるなどして、緊密な連携を目指してきた。

 県障害福祉課によると、地域協議会は事務所ごとに年1回以上開催され、個別のケースでは担当者が連絡を取り合ってきたという。警察からの各事務所への通報・連絡は14年度で計1712件(神戸、姫路、西宮、尼崎市を除く)で、10年度の1・4倍に上る。

 だが、洲本の事件では機能しなかった。洲本署は事件直前、被害者の家族から1カ月弱で計9回の通報・相談を受けていたが、洲本健康福祉事務所とは情報を共有していなかった。結果的に医療による対応はなされなかった。同署は「健康福祉事務所への連絡は、プライバシーや人権にも関わり、踏み込みにくかった」と話す。

 また明石健康福祉事務所は事件の約5カ月前、平野被告の家族の相談を受けて本人と面会。医療中断も把握したが、それまで関わる機会がなく初対面で、「人間関係ができておらず、医療の再開などに結び付けるのが難しかった」(県障害福祉課)という。結局、明石と洲本の事務所は、平野被告が洲本市の実家に転居したのを把握できなかった。

 県が事件後に設置した精神保健医療体制検討委員会は井戸敏三知事への提言の中で「結果的に情報共有が不十分だった」と指摘し、「継続支援チーム」の設置を求めた。

▼専門的人材確保が課題

 関西学院大学人間福祉学部の松岡克尚教授(精神保健福祉)の話 現制度の下で現実的に取り組める手段としては、知恵を絞った施策といえる。ただ運用には、患者との信頼関係を構築できる専門的人材をどこまで確保し、育成していくことができるかが重要となる。またプライバシー侵害のリスクを伴っており、現場の担当者が板挟みとなる恐れがある。スタッフの負担軽減や患者の人権擁護の検証のため、教育研修の充実と第三者機関の関与が必要ではないか。

▼健康福祉事務所 現場の繁忙深刻

 事件を受けて県が設置した「精神保健医療体制検討委員会」の提言では、措置入院者らを見守り続ける新たな支援制度を始めるため、各健康福祉事務所におけるマンパワーの確保も求めた。背景には、少ない人員で多くの相談に対応している実態がある。

 洲本健康福祉事務所によると、2014年度に同事務所に寄せられた精神保健福祉相談は550件に上り、職員3人で対応しているという。提言を受け、県は4月から各事務所で担当者をおおむね1人ずつ増やすなどして体制を強化する方針を打ち出している。

 事件で起訴された平野達彦被告(41)については05年以降、洲本署や被告の家族、医療機関、明石健康福祉事務所などと対応を続けてきた。明石市内では安定して生活をしていた時期もあった。

 洲本健康福祉事務所の柿本裕一所長は「事件前に医療中断となるまでは、関係機関の連携は取れていたのに」と悔やむ。担当者は「(事件5カ月前に相談してきた被告の母親に対して)しばらくして『その後どうですか』という声掛けをすれば良かったかな、という思いもある」と胸の内を語った。(切貫滋巨)

2016/3/9

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