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【特集】神戸・東須磨小 教員間暴行

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思想家・内田樹さん
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思想家・内田樹さん

■下位者への辱め、まん延

 組織内の相対的な優位を利用して人に屈辱感を与えるのは、いま日本社会全体が罹患(りかん)している病だ。メンバーの自尊心を損ない、生きる意欲を傷つけ、結果的に組織の力を弱めることに日本中の組織が熱中している。異常というほかない。この傾向は、新自由主義の時代になり「選択と集中」「格付け」「資源の傾斜配分」がうるさく言われだしてから顕著になった。

 かつての日本企業は疑似家族だった。終身雇用・年功序列で、全員が時間をかけて新入社員を一人前に育てた。どの企業も、どうやって組織全体の士気を高め、個々の能力を上げるかをまず配慮した。「こうるさく勤務考課をしない」ことが高度経済成長を駆動した組織論。私の父の世代は、会社の同僚同士はほとんど家族同然だった。

 今はもうそういうことはない。主因は成果主義、格付け原理主義だ。厳密な格付けによって優位者をもてはやし、劣位者を辱めるという作法が集団のパフォーマンスを上げるという「信仰」を多くの組織が採用した。閉鎖された組織内で相対的な優劣を競い、格付け上位者に、下位者へ屈辱感を与える権利を与えた結果、いじめやパワハラ、セクハラがあらゆる組織にまん延することになった。

 学校教育は教員たちが集団で教育をする場である。だから、同僚の全教員がベストコンディションで教育活動に取り組めるように配慮するのが組織人の義務であるはず。東須磨小学校の加害教員は、いじめ対象の教員がつぶされ、教育現場に立てなくなるさまを楽しんだ。それにより学校教育そのものの土台が掘り崩されてゆくことに無関心だった。病的な心理だと思う。

 処方箋はシンプルだ。みんなもっと隣人にたいして寛容になる、親切になるということに尽くされる。

 こういう問題が発生すると、「管理を強化しろ」「厳しく処罰しろ」と提言されるが、これは人々が過剰に査定的になっていることが原因で起きている現象である。日本の組織の生産性が落ちているのは、ただ他人のふるまいを監視し、査定している管理部門が膨れ上がってきたせいである。問題が起こるたびに管理を強化し、締め付けてきたことの結果として、今の日本社会があることにいいかげん気づくべきだ。

 教員の管理を強化すれば、学校はさらに息苦しい場所になる。教育は、生身の人間同士が向き合う現場だ。どうすれば教員たちが上機嫌でいられるか、自由に創意工夫できるか、子どもたちと過ごす時間を長くできるか、教育改革はまずその問いから始めるべきだ。(聞き手・段 貴則、撮影・鈴木雅之)

【うちだ・たつる】1950年東京都生まれ。東京大文学部卒。東京都立大大学院人文科学研究科修士課程修了。神戸女学院大名誉教授、合気道道場「凱風館(がいふうかん)」館長。「日本辺境論」など著書多数。神戸市在住。

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 さまざまな分野の方に聞くリレーインタビュー「先生はいま 私の考え」は随時、掲載します。

2019/12/31

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