オーストラリアでたばこに関する強烈なCMが放映されていました。大変な美人の女性が、あっという間に老い、しわだらけになってしまう。これがたばこの本質です。
喫煙すると体の細胞が老化します。だから生活習慣病やがんになるリスクが高まるのです。喫煙は健康長寿とは絶対に相いれません。
具体例を挙げます。喉頭がんになる確率は喫煙者が非喫煙者の32・5倍、肺がんは4・5倍というデータがあります。全がんの平均でもリスクは1・7倍に上ります。
生活習慣病では、喫煙者が糖尿病になる確率は1・5倍。高血圧、虚血性心疾患なども増えると報告されています。生活の質を下げる全ての疾患・症状に、たばこは害を及ぼしているのです。
一昨年の参院予算委員会で、麻生太郎財務相がたばこの税収を「重要な財源」と説明し、禁煙の効果を疑問視する発言をしました。こういうデータがあります。イギリスの医師を対象にした調査で、70歳時点での死亡率は喫煙者5割、非喫煙者2割、80歳ではそれぞれ8割、4割になり明らかな差がありました。
たばこは毒で麻薬で人を殺します。政府は認識も対応も甘いと言わざるを得ません。
ヘビースモーカーだった私の兄は、肺線維症にかかり、胸をかきむしりながら亡くなりました。なぜたばこをやめさせられなかったのかという思いが私の原点です。
医院の禁煙外来での治療に加え、仲間と「禁煙ひろめ隊」を結成して地元の中学生らにたばこの害を教えています。東播地域での喫煙率は確実に下がっています。
たばこは吸う人の健康を損なうだけでなく、吸わない家族の健康寿命も縮めます。フィルターを通して吸い込んだ煙より、たばこの先から上る煙の方が有毒だからです。高濃度のPM2・5も含まれ、分煙では防ぎきれません。愛する家族のためにどう行動すべきか、考えてみてください。(聞き手・田中伸明)
【いのまた・たくみ】1946年生まれ。神戸大学大学院を修了後、高砂市民病院などを経て93年に加古川市で開業。同市在住、秋田県出身。
禁煙外来
ニコチン依存症の治療が2006年から公的医療保険の対象になり、医療機関の禁煙外来が増加。当初からある貼り薬に加え、飲み薬「バレニクリン」などが処方されている。