肩の痛み、腰の痛み、膝の痛み…。年齢を重ねると、体のどこかに痛みを抱えがちです。痛みをコントロールできないと、生活の質は大きく下がってしまいます。
ですが、それだけではありません。
体を動かすことを避けるようになると、筋力の低下を招いたり、骨粗しょう症の要因になったりします。交感神経や運動神経の緊張により、血流が悪化し、さらに痛みが強まることもあるのです。
また「もう治らない」「どうなってしまうのか」と、マイナスの考えが頭を離れなくなり、脳のレベルでも悪い影響を及ぼすことが明らかとなっています。
まさに痛みは負の連鎖を起こすのです。
日本人には「我慢は美徳」という文化がありますが、痛みに関しては、それはよくありません。痛みとの付き合い方を変える-。そのお手伝いするのが、ペインクリニックです。
痛みには大きく分けて2種類あります。一つは切り傷ややけど、打撲など、炎症やけがによるもので、これらは通常の痛み止めが有効です。
けれどももう一つ、神経が障害されることで、起こるものがあります。代表的なのが、帯状疱疹(ほうしん)後神経痛や三叉(さんさ)神経痛などです。こちらはやっかいで、普通の痛み止めがほとんど効かないのです。
こうした痛みには、脳や脊髄のレベルで効く薬など、特殊な薬を使います。薬物療法は日本ではやや遅れていましたが、この5年で使える薬が大きく増えました。
神経ブロックという方法もあります。神経の近くに局所麻酔薬を注射し、痛みを取り除く方法です。「麻酔が切れたら、また元に戻るのでは」と思うかもしれませんが、痛みが緩和されることで悪循環が改善し、回復も期待できるのです。
また、治りにくい痛みにはペースメーカーのような装置で脊髄に電気刺激を送る治療法を用いることもあります。このようにさまざまな治療法があり、ほとんどの痛みに対応できます。症状が劇的に改善する人もおり、負の連鎖を断ち切ることができます。
痛みに原因があるのなら、まずそれを治療するのが重要です。痛みが長引く場合は、ペインクリニックを受診するという道があることを、頭に入れておいてください。(聞き手・武藤邦生、協力・兵庫県予防医学協会)
【たかお・ゆみこ】1963年、芦屋市出身。神戸大学大学院医学研究科外科系講座麻酔科学(教授・溝渕知司)准教授。日本麻酔科学会指導医、日本ペインクリニック学会専門医。
高雄さんが勧める三つの作法
一、「我慢は美徳」ではない
一、痛みが長引けばペインクリニック受診を
一、適切な治療で「負の連鎖」を断ち切る
ペインクリニック
あらゆる痛みを診断・治療する医療機関。基本的に麻酔科医が診療に当たり、神経ブロック注射や薬物療法などの治療が行われる。専門医のいる医療機関は、日本ペインクリニック学会のウェブサイトで調べられる。