私たちの体を形づくる細胞の中には遺伝情報を担う染色体というものがあり、染色体の端には健康長寿の鍵となる「テロメア」という部分が存在します。
テロメアは染色体の両端に「TTAGGG」という6文字の塩基が繰り返して並んでおり、平均で1万~1万5千字程度あるといわれています。細胞が分裂するたびに50~100字ずつ短くなり、5千字前後に到達すると寿命が終わるといわれ、テロメアは「命を刻む時計」とも呼ばれています。
遺伝子という観点で見ると、長寿にはこのテロメアと活性酸素に強いミトコンドリア遺伝子が重要で、いずれも先天的なものです。ミトコンドリア遺伝子は母親から受け継がれるため、長寿の母親から生まれた子は長生きします。テロメアの長さについては生まれた時にある程度決まっていますが、減少を緩やかに抑えることはできると指摘する研究もあります。
過度なストレスなどは活性酸素を過剰に出し、細胞を傷つけます。傷ついた細胞を修復するため、体内では細胞分裂が起こり、結果としてテロメアの短縮を促進させることになります。ストレスへの対処は長生きの上で非常に大切です。
ストレスは神経細胞にも影響し、脳内ホルモンの分泌が減少することにもつながります。ストレスを完全になくすことは難しいですが、物事はいいように考える▽嫌なことは翌日まで持ち越さない▽人の嫌がることを言ったりしたりしない-など、ストレスとうまく付き合うことを心掛けてみましょう。
適度な運動や食事、睡眠といった健康的な生活習慣を送ることや人とのつながりも長生きの上では重要です。私も7時間睡眠を心掛け、十数年前から月1回ほど、1人暮らしの高齢男性らと昼ご飯を食べ、クロスワードパズルなどで交流する会を開催しています。
背筋を伸ばした生活も心掛けましょう。背筋を伸ばすと、背中の中心を首から骨盤までつないでいる筋肉「脊柱起立筋」を使用し、基礎代謝の上昇にもつながります。結果、免疫力が上がるなどの効果があるといわれます。
テロメアが遺伝的に長く、さらに健康的な生活を過ごしていたとしても、何かの拍子に転んでけがをしてしまえば、寝たきりの生活にもなりかねません。けがをしないように注意を払って日々を過ごしましょう。(聞き手・篠原拓真、協力・兵庫県予防医学協会)
【なかの・あつし】1927年、新潟県生まれ。54年、大阪市立大医学部卒。名古屋大医学部付属病院産婦人科で勤務し、61年に神戸市兵庫区で中野産婦人科を開業。地域で1人暮らしの高齢男性を支援する「親寿会」を立ち上げている。
中野さんが勧める三つの作法
一、ストレスをためずにうまく付き合おう
一、適度な運動と食事、十分な睡眠を取ろう
一、寝たきりを招く転倒には特に注意しよう
テロメアと酵素テロメラーゼ
テロメアは細胞の染色体の末端部分。細胞分裂のたびに短くなり、老化やがん化に深く関わっている。酵素テロメラーゼが働いて修復されるが、加齢のほか、ストレスやアルコールの多飲などで短くなることが分かっている。がん細胞では、この酵素が盛んに作られており、治療の標的になっている。