高齢になると多くの人が膝の痛みに悩まされます。以前は「老化現象なのでうまく付き合うしかない」と医師も患者もあきらめがちでしたが、今はいろんな治療法が開発されています。生活の質を高める上で、膝の痛みへの対処は重要だと考えられるようになりました。
加齢に伴う膝の痛みは、関節の軟骨がすり減って変形することが主な原因です。受診していない人も含めれば、痛みを抱える人は全国で3千万人という推計もあります。
怖いのは、痛みが原因でどんどん生活の質が低下することです。膝が痛いとあまり歩かなくなり、筋力が落ちて、さらに膝への負担が増す。骨ももろくなって、骨折などで寝たきりになる危険性が高まる、という悪循環です。
これを断ち切るため、最近はがん患者に使う強い鎮痛薬も、膝の治療に使われるようになりました。痛みを取って体を動かせるようにし、筋力を回復させようという考えからです。筋肉は関節を保護し、クッションの役目も果たします。つえやサポーターなどをうまく使えば、さらに効率的に動けます。
太ももの大腿(だいたい)四頭筋をはじめ、全身の筋肉をバランスよく強化するのが理想です。いすにすわり、両脚を地面と水平に10回伸ばす運動を1日数回繰り返すだけでも、筋力はかなり違ってきます。腹筋運動や背伸びもお勧めです。
膝関節の変形が進んだ患者には、人工関節への置換を検討します。違和感などが残るため患者の満足度は高くないというデータもありますが、痛みで悪循環に陥るよりは、はるかに健康寿命を維持できます。
骨切り手術という方法もあります。関節の骨を一部切除してO脚を矯正し、痛みを和らげます。軟骨の細胞を培養してすり減った関節に移植する再生医療も始まっています。いずれも変形がひどい患者には使えませんので、磁気共鳴画像装置(MRI)で詳しく検査します。
実は、どんな方法より効果の高い治療があります。それは減量です。70歳の人の筋力は20歳の半分になるといわれますが、体重だけどんどん増えてしまうと膝が悲鳴を上げるのは当然です。
私も筋力強化と減量を兼ねて、5年前からジョギングに取り組んでいます。若い頃から運動を継続できれば、効果はさらに高まります。(聞き手・田中伸明、協力・兵庫県予防医学協会)
【くろだ・りょうすけ】1965年、神戸市生まれ。神戸大医学部卒、同大学院博士課程修了。神戸大整形外科講師、准教授を経て、今年6月から教授。膝のエキスパートで、テニスのクルム伊達公子さんや柔道の野村忠宏さんらを治療。西宮市在住。
黒田さんが勧める三つの作法
一、毎日の運動で筋力を強化し膝関節を保護
一、最良の治療法は減量。今すぐ始めよう
一、痛みを我慢するよりは人工関節の検討を
膝の痛みの治療薬
炎症を抑える飲み薬に加え、最近は同様の効果が見込める塗り薬や貼り薬も登場。潤滑油の働きをするヒアルロン酸の注射も。ステロイド薬やがん患者用の鎮痛薬など、効き目は高いが副作用もある薬も使われるようになった。