年を取ると、関節の軟骨がすり減って変形性関節症が生じます。最も多いのは膝ですが、股(こ)関節もその次に多く、日本の人口の1~2%程度はいると言われています。
股関節は、胴体と両脚をつなぎ、最も体重がかかる関節といえます。ボールの形をした大腿骨頭と、骨盤側の屋根を組み合わせた「球(きゅう)関節」で、多様かつ3次元的な動きができます。変形性股関節症になる日本人は、生まれつき脱臼があったり骨盤側の受け皿が小さかったりする先天性が7~8割を占めます。
将来、股関節が悪くなるのが明らかであれば、若いうちに骨盤を切って屋根を大きくする手術をすることもあります。しかし、この手術は入院やリハビリ期間が長くかかるため学校や仕事などの理由で手術のタイミングを逃すことも多く、そうすると軟骨がすり減って痛みが出てきます。
痛みが強ければ痛み止めなどを使った後に、筋力トレーニングをするのがお勧めです。プールでの水中ウオーキングは、体重の負荷が少ない上、水の抵抗で筋力をつけることができます。自転車をこぐのも良いでしょう。エアロバイクなら、自宅でテレビを見ながらでもできます。
股関節の痛みには、体重も大きく影響します。運動によって、筋力アップはもちろん、体重を減らすことも可能です。食事のバランスに気を付けることも重要です。水中ウオーキングと食事療法で10キロ減量できて、痛みがなくなった患者さんもいました。
それでも症状が進み、生活に支障があるなら人工股関節を入れる手術が選択肢になります。傷ついた関節面を取り除き、人工関節に置き換えます。既に確立されている手術で、痛みも取れ、スムーズな関節の動きが得られるので、「手術を受けて良かった」という声をよく聞きます。
この手術には、無理な姿勢で体をひねると脱臼しやすいなどのリスクもあります。しかし、正確な位置に人工股関節を入れればかなり軽減できます。そのためにはコンピューターを使ったナビゲーションシステムが有効です。
当院では、人工関節の手術を受けた人たちが交流する患者会を設けています。痛みで日常生活が困る人はもちろんですが「友人に迷惑を掛けるので旅行に行けない」という人も、人工股関節を入れて生活を楽しむことを考えてもらえたらと思います。(聞き手・森 信弘、協力・兵庫県予防医学協会)
【にしやま・たかゆき】1966年、神戸市生まれ。山口大医学部卒。神戸大特命准教授(整形外科)を経て2016年7月から現職。専門は股関節外科、足の外科。神戸市垂水区在住。
西山さんが勧める三つの作法
一、水中ウオーキングやエアロバイクで筋力アップ
一、バランス良い食事で体重をコントロールする
一、生活を楽しむため人工股関節も選択肢に
変形性股関節症
患者は女性が多く、最初は歩き始めなどに脚の付け根に痛みが現れる。進行すると夜に痛みで目覚めることもある。階段の上り下りなど日常の動作に支障を来すと、糖尿病など生活習慣病のリスクも大きくなる。