記事特集
阪神・淡路大震災から1年後に兵庫署(神戸市兵庫区)が作成した内部向け記録集には、これまで公表されてこなかった地震直後の生々しい状況が記される。倒壊した庁舎にいた署員は28人。うち10人が生き埋めになる中、管内の全壊建物は9500棟、全焼は900棟を超え、住民からの救助要請が署に相次いだ。現場にいた署員らの証言とともに、あの日を再現する。
午前5時46分、当直責任者として1階宿直室で仮眠していた刑事2課長山崎保(59)=灘署長=は激しい揺れの後、暗闇でぽたぽたと液体が滴るのを感じた。頭から出血。10針を縫う大けがだった。落ちてきた天井が目前に迫り、倒れたロッカーに脚が挟まれて動けない。
兵庫県警本部は無線で全署に呼び掛けたが、兵庫署から応答はない。地域2課員野口岳志(50)=サイバー犯罪対策課次席=が3階宿直室から2階に下り叫んだ。「階段がなくなった。1階がぺしゃんこです」。助けを求める声が床下に聞こえた。警察署の大半の窓には鉄格子がある。出口はなく閉じ込められた。
機転を利かせたのが、庁舎敷地内にある「兵庫寮」から駆け付けた若手警察官たちだ。同6時6分、交通事故処理車の窓をたたき割り、無線機を取り出して本部に連絡。2階トイレの窓にはしごを掛け脱出口にした。
1階ではガスが充満し爆発の危険が迫っていた。地域課フロアでは4人が机やロッカーの隙間に飛ばされ、辛うじてけがを免れた。暗闇で声を掛け合う。手を伸ばしストーブのガス栓を閉め、探し当てた無線機で無事を伝える。だが会計課から声がしない。
山崎はがれきの下で、署に駆け込んでくる住民の悲痛な声を聞いていた。
署長飛渡和敏=故人=の指示が響く。「市民を先に救え。ここは後回しだ」
警察官として当然の判断だと思った。発見された後も、下手にロッカーを動かせば天井が崩落しかねず、救出に手間取っていた。「死ぬものか。俺は最後でいい」。署員や住民らが救出されたという報告が入るたび、山崎は力を込めて「了解」と声を張り上げた。
◇
庁舎北側から火が上がった。山崎の代わりに部下を指揮した地域2課長中瀬喜弘(62)=退職=は「消しに行きます」と焦る警察官を強い口調でいさめた。
「限られた人数でできることを考えてくれ」。通信手段がなく、出動させれば現場での判断は各自に任せるしかない。兵庫区上沢通の中山病院では火の手が迫る中、署員らが入院患者21人を中学校に誘導。間もなく病院は全焼した。
壊れた美容店の下敷きになった高齢女性の救出に当たっていた機動隊員横田新(48)=機動隊員=に、火が襲ってきた。積み重なった木材を手ではがし、近所で借りたジャッキで倒れた柱を持ち上げたが、間に合わない。業務用のボンベが次々に破裂。炎の中、声は消えていった。
機動隊員今冨昭紀(48)=災害対策課員=は女性の要請に戸惑っていた。救助活動中、すがるように言われた。「娘を掘り起こしてください」。がれきの間に、3歳くらいの女の子の背中が見えたが、既に亡くなっていた。
「生きている人を優先させてください」。頭を下げて次の現場に向かった。だが、立ちすくんだ女性の姿が頭を離れない。絶望の中にいる被災者を救うすべはなかったのか。今も問い続けている。
◇
当時の兵庫署員に「あなたの教訓とは」を聞いた。
副署長石原勝弘(75)=退職
「救助最優先で、被害情報の収集が二の次になった。その分、部隊をどこに、どれだけ投入すべきかの判断が難しくなり、混乱を招いた。救えた命があったかもしれないという反省を忘れてはいけない」
女性警察官約10人で編成された「のじぎくパトロール隊員」小寺尚子(48)=退職
「被災者の心のケアのため避難所を巡った。『何ができるねん』とやり場のない気持ちもぶつけられたが、話を聞いたり、折り鶴を飾ったりし、打ち解けた。市民の心を救う。これも警察の役割なんだと実感した」
交通課員奥井英臣(53)=宝塚署副署長
「壊れた道路を緊急で通行止めにしたが、迂回(うかい)路の確保まで手が回らなかった。渋滞が続き、緊急車両の走行にも影響した。迅速に情報共有して全体状況をつかむことが、多くの命を救うための教訓だ」
警備課員野勢豊(58)=加古川署留置管理課長
「署の災害警備本部で、全国からの応援部隊を受け入れ、派遣先を検討した。だが通信手段がなく、効率的な運用ができたとは言いがたい。想定訓練で即応力を磨いておかないと、せっかくの善意も生かせない」
◆
(敬称略。= =内は現在の肩書など)
(安藤文暁、竹本拓也、鈴木雅之、石川翠、杉山雅崇、篠原拓真、村上晃宏が担当しました)
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