記事特集
阪神・淡路大震災から、23回目の1月17日を迎えた。新婚4カ月で命を落とした兵庫県豊岡市出身の足立伸也さん=当時27歳=の父悦夫さん(85)と母朝子さん(81)は、ほぼ毎年この日、神戸の追悼行事に足を運ぶ。
昨年1月16日、但馬は大雪でJRが不通となった。悦夫さんは予定をキャンセルして帰宅後、盲腸で緊急入院。3週間の入院生活を送った。数年前には心臓の手術も受けた。年を重ねて体力は落ち、神戸はどんどん遠くなってきている。
◆◇◆
1995年1月23日。悦夫さんと朝子さんは、震災で亡くなった伸也さんと妻富子さん=享年25歳=の遺骨をハンカチに包み、膝に載せて豊岡に戻った。古里は、いつもの日常だった。
「しばらくは泣かれへんかったの」と朝子さん。何カ月かたって、やっと、ぽろぽろ涙がこぼれた。「それまではまだ、おるって感覚が残ってたんかなぁ」。伸也さんが忘れられるのはつらく、周りと話したくてたまらなかった。だが豊岡ではすぐに震災は過去となり、遺族の思いは受け止めてもらえなくなった。
一方の悦夫さん。「僕はあの日から、人前で泣いたことは1回もない。でも、心はガッタガタやった」。感情の持って行き場がなく、突然食卓をたたいたり、ふとしたことで猛烈に怒ったり。酒も暴飲した。
転機が訪れたのは、1999年。震災の祈念碑を巡る追悼集会に、悦夫さんが参加した。行事の後、神戸から電話をかけてきた悦夫さんの声が、家を出た朝とは全く違っていたという。朝子さんは「それは見事に弾んだ声でね。正直、ほっとした」とほほ笑む。
神戸から豊岡に戻るバスの車内で、悦夫さんは息子が生きた証しを残したいと考えていた。99年末、息子が暮らしたアパートの近くに、震災からの歳月と同じ樹齢の桜を植えた。根元には2人の写真を埋めた。今では毎年桜の季節に、足立さん夫婦を慕う遺族も集い、伸也さんの同級生も足を運んでくれるようになった。
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その後も記念碑を巡る行事などを通じ、夫婦は多くの遺族と知り合い、話す機会も増えていった。息子夫婦だけでなく、多くの人が命を奪われた。自分たちにできることは何か。次第に「減災」という言葉に思いが至った。災害は防ぎ切れない。だが備えることで、被害は減らせる。それを伝え続けていきたい-と。
伸也さんの死の3年後に生まれた孫娘は今年、成人式を迎えた。悦夫さんは「震災を知る人は減っていく。若い人に受け継いでもらわんと『減災』はつなげへん」と前を向く。
朝子さんは今年、年賀状を380枚書いた。神戸だけでなく、東北や新潟の被災地の遺族にも。「あの日からの出会いは、全部伸也がくれた。そまつにできないし、今はたくさんの友達がいて幸せ」。今年も17日には、何度も洗濯してぴったりになった伸也さんのセーターを着て神戸に行く。
悦夫さんは、震災学習の子どもに体験を話すこともある。強調するのは「出会いを大切に」「しっかり朝飯食べて」「震災を風化させない」。そして「減災」。「まずはみんなが元気やないと何もできんしね。忘れられてしまうのはさみしいしなぁ」
『減災』という言葉に、どんな思いが詰まっているか。それが伝われば、伸也さん夫婦の命は再び輝く。そう信じ続けている。(阿部江利)
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