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【特集】ニュース解く説く TOKTOK

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シャボットあかねさん=オランダ・ユトレヒト州
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シャボットあかねさん=オランダ・ユトレヒト州

 京都の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者に、医師が薬物を投与したとされる嘱託殺人事件では「安楽死」や「尊厳死」という言葉が注目された。安楽死を法的に認めているオランダに住み、「安楽死を選ぶ-オランダ・『よき死』の探検家たち」(日本評論社)などの著書があるシャボットあかねさん(72)に、今回の事件の受け止めや日本とオランダの死生観の違いなどを尋ねた。

 -今回の嘱託殺人事件をどう受け止めたか。

 この事件で起訴された医師2人は、被害女性と面識がなかった。故・手塚治虫さんの漫画「ブラック・ジャック」の登場人物で、患者を安らかに死なせようとする「ドクター・キリコ」に強く引かれていたとされ、100万円以上の金銭が支払われていた。これまで日本で問題となった安楽死を巡る事件とはどこか違う、異質だというのが大勢の人たちの印象だったと思う。

 医師が金銭だけ受け取り、約束の日に姿を現さないことも考えられた。また、投与したのが適切な致死薬でなく、死に至らずに苦しみがさらに増していたら…。想像するのも恐ろしい。

 -なぜ、女性は強く死を望むようになったと思うか。

 女性は、自分のことを愛し、支援し続けた人たちと、死の願望についてしっかり語り合えていなかった、というのが私の結論だ。

 女性は非常に献身的なケアチームに支えられ、彼女を愛する人たちもいた。でも、持続的に死を願っていたようだ。女性が直面していた絶望を考えれば、死の願いは私には理解できる。

 日本では、死を望むことが「孤独だから」、あるいは「ケアが十分でないから」などの理由で、一種の「負け」や「間違い」のように捉えられていると思う。「死」について真剣に話し合おうとしない傾向が強い、とも感じる。

 女性が死の願望について、親しい人たちと心ゆくまで語り合えていれば、死の延期や取りやめがあったかもしれない。女性の「今すぐにでも死にたい」という意志は揺るがなかったとしても、孤独な死を避けることは可能だったと思う。

 死を望む気持ちを尊重しながら、死をオープンに話し合うことは緩和ケアの重要な部分だ。そこを省いたまま、緩和ケアとは肉体的な痛みを取り除くこと、と考える人たちが多い。それも今回の事件と関係があるような気がする。

 -オランダ人は「死」をどう捉えているのか。

 オランダでは、死は本人が主役、家族などまわりの人たちはあくまで脇役に徹する。死の前に対話のプロセスがあり、安楽死のような計画的な死であっても対話を重ねることで、周囲も「本人がそれを心から欲している」と徐々に納得していく。そうして本人が選んだ形で死を支えることが、死後のグリーフケアに貢献し、遺族に良い思い出を残すと言われる。

 オランダの安楽死は、本人の要請による生命の終結が目的で、健康保険が使える。医師には守らなくてはならない要件が定められ、安楽死の要請を拒否することもできる。

 患者は家族や医師と対話を重ね、それが緩和ケアの一環になる。いったん要請が認められると、安心して生き続け、結局自然死で亡くなることもよくある。安らかに死ねる保証が安心感をもたらすように思える。

 自分が安楽死を選ぶかどうかとは関係なく、多くのオランダ人は「安楽死が選択肢にあるのは良いこと」と思っている。

 -死を望む患者に、周囲で支える人たちはどのような姿勢で接するべきか。

 まずは常に患者と対話する。対話とは難しいことを話し合うのではない。とにかく話す習慣があるということが大切だ。

 患者本人が死を望んだら、まずはケアの充実などを求める「SOS」でないことを確認する。そして、その願望が決して不自然なものではなく、周囲の献身が足りないせいでもない、と認識する。この際、周囲がしっかり気持ちを聞くことが重要だ。患者が「自分を大切に思ってくれる人がいる」と思うことは、ベストの緩和ケアにもなる。

 その上で、何が患者にとって最もふさわしいか、本人が主導する形でともに探ることが、次のステップになる。この間、患者と周囲との間で対話が積み重ねられていれば、主治医が死期を延ばさない処置(治療を中止するなど)を選ぶ可能性は高くなるだろう。

 -日本も安楽死の是非を巡る議論を深めるべきか。

 日本では家族との関係性が欧米と異なるから、個人中心に考えることはできないと言われることもある。安易に外国のまねをすべきではないだろう。

 だからと言って、本人が自分の死について定めるべきではないとは言えない。

 オランダでは「安楽死を実施してほしい」「(薬を使い意識を落とすことが死まで続く)緩和鎮静を始めてほしい」など、何かをするように要請する「ポジティブリスト」について、医療者が拒否する権利を認めている。

 一方で、「心肺蘇生はしないでくれ」「延命治療は始めないでくれ」といった、何かをしないでほしいという「ネガティブリスト」は必ず守る義務がある。

 急がば回れ、だ。日本でもまずは「ネガティブリスト」の尊重から始め、それから安楽死など「ポジティブリスト」の議論に進むのがベストではないか。(田中宏樹)

2020/9/20

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