にぎわいのある道路空間を生み出すため、国が新たに創設した「歩行者利便増進道路」に、三宮中央通り（神戸市中央区）と大手前通り（兵庫県姫路市）、御堂筋（大阪市）の３カ所がこのほど、全国で初めて指定されました。通称「ほこみち」と呼ばれ、オープンカフェなどが出店しやすくなる新制度。その内容や今後の展望を取材しました。（安福直剛）

■コロナ禍で流れが加速

　制度は２０２０年５月に成立、同１１月に施行された改正道路法に基づきます。改正で「快適な生活環境の確保」や「地域の活力の創造に資するため」として、歩行者利便増進道路「ほこみち」の項目を新設。指定されると道路占用の基準が緩和され、広告塔やベンチなどを置きやすくなります。

　歩道の利活用はこれまでにも、国家戦略特別区域法や中心市街地活性化法に基づき、実施されてきました。背景には、バイパス整備による従来道路の自動車交通量の減少や、都市部への人口集中による歩行者数の増加があるといわれます。

　この流れを加速させたのが、新型コロナウイルス感染症の拡大です。店舗内での飲食は「密」になりやすく、利用客からは敬遠される傾向にあります。影響を受ける店を支援するため、国は昨年６月、飲食店などによる道路占用の基準を緩和。この「コロナ占用特例」は全国で約２４０件が実施され、ニーズの高さが注目されました。

　ただ、歩道を利活用しようとしても、道路法で占用基準が厳しく定められているほか、警察や周辺住民らとの協議で難航するケースが多かったといいます。それが今回の法整備で円滑に。国土交通省の担当者は「法律で明文化されることで、道路を使いたい人を後押しできれば」と期待します。

■ニーズの精査が必要

　では、新たな制度下で「ほこみち」に指定された場合、具体的に何が変わるのでしょうか。

　最も大きいのが「無余地性の基準」と呼ばれる道路法の縛りがなくなることです。これにより「道路以外に設置できるが、歩道に置いた方がにぎわいに役立つ」と判断すれば、占用物を置くことができます。施行令では具体例として、ベンチや街灯、看板をはじめ、食事や購買施設などが明記されています。

　また、法改正前に占用が認められていた地域でも期間は原則５年以内で、計画が立てづらいために参入をためらう事業者もあったといいます。新制度では、公募で選ばれた場合は最長２０年間の占用が可能で、思い切った初期投資を後押しします。

　一方で、ほこみちを指定する道路管理者には、求められる要件があります。まずは、対象道路が快適な生活環境の確保や地域活性化に役立ち、歩行者の利便性増進に適していること。また、歩行者の円滑な通行のための幅員▽沿道住民や関係機関からの理解▽高齢者や障害者も使いやすい道路－などが求められます。

　先の担当者は「道路管理者が指定しただけでニーズがなければ意味がない。地域活性化や歩行者のためになるかを事前に精査する必要がある」と指摘します。

■新たなまちづくり

　今回、ほこみちに初指定された３カ所はいずれも関西で、うち２件は兵庫県内となりました。

　神戸市が指定した三宮中央通りの占用主体になる地元のまちづくり協議会は、実に２０年ほど前から歩道を活用したにぎわいづくりに着目し、市とともに取り組んできました。市道路計画課は「協議会の皆さんの熱意に引っ張られた面が大きい。ほこみちの指定も当然の流れ」とします。

　また市は、三宮再整備の一環で「サンキタ通り」や「三宮クロススクエア」での指定も目指しており、今回の事例は「手続きのノウハウも含め、歩道活用の先駆け的な存在となる」（同課）とのことです。

　姫路市が指定したのは、ＪＲ姫路駅と姫路城を結ぶ大手前通り。同市は通りの再整備を行うとともに歩道に店を出すなどの社会実験を実施してきました。そこに国の制度化の話があり、「法的な裏付けができたことは大きい」と歓迎しています。順調なら２２年度から運用が始まるそうです。

　今回指定された３カ所以外にも、ほこみちに関する相談が国交省や神戸市には相次いでいるといいます。国は２５年度までに５０件ほどの指定を目指しています。自動車中心の都会から、人がにぎわう温かいまちへ－。歩道を舞台に、新たなまちづくりが期待されます。