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【特集】ニュース解く説く TOKTOK

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公益財団法人日本生産性本部コンサルティング部・前田貴規氏
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公益財団法人日本生産性本部コンサルティング部・前田貴規氏

 「ジョブ型」と呼ばれる欧米流の人事制度が、日本の企業でも広がりつつあります。職務の内容や目標をあらかじめ明確にしておき、達成度で評価や賃金に反映させることなどが特色。年齢や勤続年数に関係なく、専門性のある高度な働き手を適切に処遇して意欲を引き出し、企業間の激しい国際競争を乗り切る狙いです。ただ、年功序列型の人事制度に慣れ親しんできた日本では、定着への課題もあるようです。(長尾亮太)

■仕事内容が基準 専門性高い人材厚遇

 ジョブ型は「仕事」をベースに考え、そこに適した人を充てる手法です。仕事の内容や責任の範囲、必要な技能、目標などを明示した「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」を事前に作成します。年齢や入社年次に関係なく、業務の難しさや責任の重さに応じた賃金体系にしており、高い専門性が求められる仕事に手厚い賃金で報いることのできる仕組みです。

 一方、「人」をベースに考え、それぞれに適した仕事を割り当てる方式を「メンバーシップ型」といいます。賃金体系は年齢や勤続年数に応じた年功序列型で、終身雇用や新卒一括採用、定期人事異動などが特色です。日本では1960年代の高度経済成長期に、不足する人材を囲い込むために企業が相次いで取り入れ、定着しました。

■コロナ禍契機 テレワークにも有効

 ジョブ型が注目されるようになったきっかけの一つは、新型コロナウイルスの感染拡大です。テレワークが広がる中で、オフィスから遠ざかった従業員の勤怠管理が難しくなり、仕事の内容を明確にするニーズが高まりました。やるべき業務がはっきりと決まっていれば、部下はオフィス勤務のように上司から細かく指示されなくても仕事を進めることができます。上司も部下の目標到達度で働きぶりを評価できるので成果を評価しやすくなります。

 ジョブ型の必要性は、コロナ禍の前から経済界で認識されていました。経済団体や大手企業でつくる経団連は2020年1月、メンバーシップ型の長所を生かしつつ、ジョブ型を適切な形で導入するよう、企業に広く呼び掛けました。

 背景には、経済のグローバル化やデジタル化など急速な事業環境の変化があります。定期的な人事異動(ジョブローテーション)や研修で人材を育てる従来のやり方では、国境をまたぐ企業活動やイノベーション(技術革新)のスピードに追いつかなくなっているのが現状です。高い専門性を持つ即戦力を国内外から採用する必要があり、メンバーシップ型の人事評価よりも、仕事内容に応じて賃金を柔軟に設定できるジョブ型が向いています。

■シスメックス、川重も導入 雇用の安定が課題

 兵庫県内でもジョブ型の人事制度に踏み切る企業が目立ち始めました。医療検査機器メーカーのシスメックス(神戸市中央区)は20年4月、管理職を対象にジョブ型を導入しました。海外売上高比率が8割を超え、従業員の6割を国外が占めており、世界市場で競争に勝ち抜くための人材の獲得や育成を強化します。

 川崎重工業(同)は21年7月、幹部約4千人を対象に導入します。年功序列型の賃金制度を廃止することで、若手でも能力のある人材が活躍できるようにし、会社の総合力を高める狙いです。一方で配置転換による人材育成など、メンバーシップ型の良さは残します。

 働き手の視点に立つと、ジョブ型にも課題が見えてきます。担ってきた仕事が事業撤退などでなくなると、メンバーシップ型のように配置転換で社内の他の仕事には移りにくいかもしれません。専門性を生かして働き続けられる社会の実現に向け、転職市場の充実が不可欠です。

 また、メンバーシップ型の特徴である新卒一括採用は、若者の失業率低下に貢献してきました。中途採用が一般的なジョブ型が普及すると、若者が職に就きにくくなる恐れもあります。企業の競争力と雇用の安定をどう両立させるかが、ジョブ型雇用の定着の鍵となりそうです。

    ◇    ◇

【教えて!先生】メンバーシップ型と融合を 公益財団法人日本生産性本部コンサルティング部・前田貴規氏

 ジョブ型と同じく仕事内容で賃金を決める欧米流の「職務給」は、戦後の日本で取り入れる動きがあったものの、定着しませんでした。会社の枠を超えて職種ごとに労働組合が結成される欧米と違い、会社ごとに組織される日本の労組では、職種ではなく勤続年数に応じて賃金が決まる方が不満が出にくいことが理由の一つでした。

 しかし1990年代に経済成長が鈍化すると、勤続年数に応じた右肩上がりの賃金カーブを維持しにくくなりました。中高年の構成割合が高まった企業には人件費が負担に。90年代後半から2000年代にかけ、役割や職責に即した賃金体系を採用するようになりました。

 現在、企業の多くがイノベーションに努めていますが、資金や設備、情報だけでなく、それらを扱う多様な人材の組み合わせで生まれます。ジョブ型の下で社員が特定の仕事を担い続けるようだと、イノベーションは起きにくくなるかもしれません。社内でさまざまな仕事を経験できるメンバーシップ型にも良さがあり、二つの制度を融合させるのもお勧めです。

 人事制度は、会社が進む方向と合っていなければなりません。年功序列がうまくいっている会社は、あえてジョブ型を取り入れる必要はないかもしれません。

2021/3/14
 

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