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【特集】ニュース解く説く TOKTOK

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徳田靖之弁護士
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徳田靖之弁護士

 ハンセン病患者、元患者に対する国の隔離政策を違憲と判断した国家賠償請求訴訟の熊本地裁判決から11日で20年となりました。2019年には同じ熊本地裁が元患者の家族の被害も認定し、元患者家族補償法が成立しました。ハンセン病差別はなくなったのでしょうか。多くの元患者や家族は「今も差別偏見は解消されていない」と感じており、今なお名誉回復の途上といえるでしょう。一方、「負の歴史」を後世に伝えようという動きも活発になってきています。(中部 剛)

■全国に今も13療養所1003人が暮らす

 ハンセン病は、「らい菌」による感染症です。菌を発見したノルウェーの医師、ハンセン氏にちなんで名付けられました。治療法がない時代には、体の一部が変形するなどの後遺症がありました。ほとんど感染しないにもかかわらず、戦前から戦後にかけて官民が協力し、療養所に強制隔離する「無らい県運動」が押し進められ、当時の患者や家族らは偏見や差別に苦しめられることになりました。

 全国各地に今も13の国立ハンセン病療養所があり、共同通信社の調べによると、今年3月末時点の入所者は1003人、平均年齢は80代後半に達しているそうです。元患者らは長年、家族と分断され、古里に帰ることすらできませんでした。高齢化が進み、現在は療養所というよりも介護施設の性格を強めています。

■「世間の目が怖い」名前公表の原告わずか

 隔離政策は1996年のらい予防法廃止まで続き、元患者らは98年に、らい予防法は違憲だとして国家賠償請求訴訟を起こしました。熊本の裁判に続き、東京、岡山でも提訴。判決時の原告は約780人に達しました。

 2001年5月11日、熊本地裁は1960年以降の国の隔離政策を違憲と判断しました。当時の裁判長は「遅くとも60年には、隔離規定は合理性を支える根拠を全く欠く状況で、違憲性は明白」とし、厚生省(当時)の責任に加え、法を廃止しなかった国会の立法上の不作為も違法としました。政府内には「控訴すべき」といった意見も強かったといいますが、小泉純一郎首相(当時)が政治決断し、患者らに謝罪しました。

 被害は患者だけではありません。感染した父や母と引き離され、子どもたちが長年にわたって苦しい生活を余儀なくされました。差別偏見も受け、家族関係が壊れてしまった人たちは少なくありません。こうした家族は16年に熊本地裁に提訴。原告は兵庫県在住者を含む500人以上となりました。19年、同地裁は家族の被害も認定し、国に賠償を命じました。

 元患者の判決から10年以上たっていましたが、残念ながら差別偏見はなくなっていません。勝訴しても名前を公表した原告はわずか数人。多くが「差別は根強く、世間の目が怖い」といい、問題の根深さを示しました。ハンセン病元患者家族補償法が同年11月に成立しましたが、国の対象推計約2万4千人に対し、請求受付件数は今年4月時点で約7千件にとどまっています。

■患者の苦悩、映画や漫画に 兵庫県内でも歴史伝える動き

 国立療養所である岡山県瀬戸内市の長島愛生園、邑久光明園では、療養所を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界文化遺産」「世界の記憶」登録を目指す運動が始まっています。

 特定NPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会が設立され、保存活動に力を入れ、20年度から収容者が使った長島愛生園の桟橋、監房跡の保存修復・整備活用に向けた調査が行われています。同協議会の担当者は「まずは、長島愛生園開園100年となる2030年の国指定史跡を目指します」と話しています。

 ハンセン病の歴史を伝える動きは兵庫県内にもあります。大手前大学が長島愛生園の資料を英訳しているほか、ハンセン病患者の苦悩を伝える映画や漫画も製作され、多彩な表現方法で伝えられています。

■差別なき社会づくりが課題 ハンセン病国賠訴訟・西日本弁護団共同代表 徳田靖之弁護士

 隔離政策の廃絶を目指す闘いにおいて、25年前のらい予防法廃止は第一の到達点でした。20年前の国家賠償請求訴訟の勝訴確定は第二の到達点。今は第三の到達点を目指した課題への取り組みが求められています。

 偏見差別の解消、入所者の高齢化が進む療養所の将来、退所者と家族が地域で安心して暮らせる状況の創出が課題。いずれも動きが遅すぎたために解決が難しい。反省の上に立ち、全力で取り組む責務があります。

 一方、現在は最終段階に入ったとも言えます。元患者の家族の訴訟を経て、政府は偏見差別解消のために、当事者と専門家らによる施策検討会を近く設置します。まずは現状分析。その上で国の啓発活動や教育の評価を行い、提言につなげる必要があります。

2021/5/23

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