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【特集】ニュース解く説く TOKTOK

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水上然氏
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 高齢者が穏やかな余生を過ごすはずだった養介護施設で、介護職員から虐待を受けるケースが近年増えています。兵庫県内ではこの10年で通報件数は10倍に上っています。2018年度は135件の通報があり、虐待認定は24件。うち19件は、被害者に認知症の症状があったことも明らかになっています。現場の人手不足や介護職員のストレスが背景要因として指摘されています。(井上 駿)

■身体的、心理的…五つの類型

 06年に高齢者虐待防止法が施行。施設職員や家族らに、虐待の恐れがある高齢者を見つけたら市町に通報するよう求め、市町には施設への立ち入り調査を認めています。同法に基づき、厚生労働省や都道府県は毎年、虐待の件数や内容を公表しています。

 高齢者虐待には五つの類型があります。県内では18年度、頬をたたいたり、居室のドアを施錠したりする身体的虐待や、ナースコールを高齢者の手が届かないところに置く介護放棄(ネグレクト)、高齢者をスマートフォンで撮影し、第三者に送信する心理的虐待などが確認されています。

■1人が夜勤で18室見守り、対応に追われた末

 今年、高齢者虐待が次々に明らかになりました。9月に同県明石市のサービス付き高齢者向け住宅で起きた事案では、認知症男性に傷が多いことを不審に思った施設が防犯カメラを設置し、その映像で判明しました。

 暴力を振るった女性介護士は「(認知症の男性)が、夜中に何度も起きて大変だった」と市の調査に話しています。1カ月に12回程度、夕方-翌朝に1人で18室を見守る夜勤専門の職員。夜中に何度も起きる入居者への対応は追いつかず、急を要する場合でもほかの職員に応援は求められない状況でした。第三者の目が届きにくい「密室」で行われるため、そもそも発覚しにくく、専門家は「明るみに出ているのはごく一部」と訴えます。

■事業所6割以上「人手不足」 コロナ禍追い打ち

 高齢者虐待は増加の一途をたどっています。介護職員のストレスや経験不足、現場の人手不足などが背景要因とされています。特に、今年はコロナ禍で消毒作業など新しい業務が増え、重い負担がのしかかっています。

 公益財団法人介護労働安定センター(東京)による「介護労働実態調査」(19年)によると、事業所の6割以上が人材の不足感を訴え、労働者の悩みでも「人手が足りない」が5割台で最も多くなっています。

 介護職は、時には高齢者のわがままに付き合い、寄り添う姿勢が求められます。18年度の厚労省の調査では、施設での虐待被害者の8割が認知症高齢者。意思疎通が難しく、職員が、思い通りにいかないストレスで虐待に手を染めてしまう面もあります。

 また、人材不足のため経験が浅い職員を雇い、施設のケア方針も周知徹底されないまま、職員が安易に身体拘束してしまうなど、悪循環の構造もあります。

 こうした背景要因が相互に影響し虐待の温床になっています。職員への研修や労働環境の改善など、地道な取り組みが求められる一方、国や地方自治体による介護施設や介護職員への支援もまた必要です。

    ◇    ◇

【教えて!先生】専門的人材、育成欠かせぬ 神戸学院大総合リハビリテーション学部准教授(高齢者福祉)水上然氏

 介護や福祉の現場で、専門学校や大学で専門的教育を受けた人材が減ってきている。介護福祉士や社会福祉士の養成課程が大学や専門学校で閉講になる動きが進んでいる。やりがいのある魅力的な業界であるにもかかわらず、「ブラック」なイメージのみが先行し、選ばれなくなってきている。

 専門学校などから現場に教育を受けた人材を送れなくなった結果、施設側は、経験の浅い職員に働きながらノウハウを身に付けてもらおうとするが、施設側も人手不足で指導する余裕や経験がない。

 そもそも、高齢者虐待は、認定へのハードルが高くなりがちで、表面化しているのはごく一部。心理的虐待やネグレクトは、証拠が残りにくく、高齢者の家族も「他にみてもらう施設がないから」と思い、通報をためらうケースもある。

 施設での虐待を防ぐには、専門的教育を受けた人材を確保するとともに、施設管理者が虐待防止に向けた指針を示し、研修を繰り返してケアの質を高めていく必要がある。質が高まれば、高齢者に笑顔が生まれ、職員のモチベーションも上がる。そうした好循環を生み出してほしい。

2020/12/6

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